家庭訪問の思い出が走馬灯のように脳裏に浮かんだので書いてみます。
あの日の家庭訪問、忘れられない宝物の思い出
コロナ禍で当たり前だった日常が大きく変わり、学校行事も例外ではありませんでした。その中でも、ひっそりと姿を消してしまった「家庭訪問」。担任の先生が年に一度、家まで来てくれるこの行事を覚えているでしょうか? 正直なところ、私は年末の大掃除が終わった頃に家庭訪問の時期がやってくるので、「家をキレイにする良い機会!」なんて、ちょっとズボラな考えでいました(笑)。でも、なくなってみると、不思議と寂しさが募ります。
玄関先で先生を待つ、小さな背中の物語
特に、我が家にとって小学校の初めての家庭訪問は、まさに一大イベントでした。幼稚園では家庭訪問がなかったこともあり、小学1年生になった息子は、4月に担任の先生が家に来てくれるのをそれはもう心待ちにしていました。当日、今か今かと玄関の外に出ては、そわそわ落ち着かない様子。その小さな背中が、今でも鮮明に思い出されます。
実は、うちの家は建物の前に車が縦列駐車してあって、表札が隠れてしまうんです。それを見た息子は、「先生が来ても、僕の家ってわからないよ!」と、画用紙とマジックを取り出してきました。大きな赤い矢印を器用に書き上げては、家の塀にペタり。「車の前で待ってたら、先生が来たらすぐわかるんじゃない?」と提案しても、「いや、書いた方が絶対にわかりやすい!」と、決して譲りません。まだ幼児のかわいさが残る小学1年生の、健気なこだわり。その姿を思い出すたびに、自然と笑みがこぼれてしまいます。
先生にサプライズ! 枝豆とビールのプレゼント大作戦

一番心に残っているのは、息子が小学4年生の時の家庭訪問です。その年の担任の先生は、新卒でいらっしゃる、とても若い男性の先生でした。先生に会えるのが本当に嬉しかったようで、息子はその日一日中、最高にハイテンション!
学校から帰ってきて、ランドセルを置くやいなや、私にこう言ったんです。
「お母さん! 先生ね、枝豆とビールが好きだって言ってたから、僕、お土産に買ってきたいんだ!」
目をキラキラさせて、興奮した様子で私に訴えかけてきます。
「え、どこで買ってくるの?」と尋ねると、
「セブンイレブンに冷凍の枝豆があるみたいなんだよ!」
どうやら、先生が学校での何気ない雑談の時間に、「仕事が終わって家に帰ったら、セブンイレブンの冷凍枝豆をつまみながらビールを飲むのが、先生の楽しみなんだよね」と話していたのを、息子はしっかり覚えていたようなんです。子どもって、本当に色々なことをよく聞いているものですね。
「そうかぁ。ビールは、お父さんの飲み残しがあるからあげてもいいよ。枝豆は、自分で買ってこれるかな?」
家からセブンイレブンまでは300メートルほど。あまりにも嬉しそうだったので、お小遣いを渡して、彼のお買い物に送り出しました。
枝豆、バランスボール、そして熱血指導!? 先生との交流
息子は嬉しそうに枝豆を抱えて帰ってくると、今度は先生に渡すための冷凍保存用の袋を用意したり、先生に出すお茶の準備をしたりと、大忙しで張り切っていました。
家庭訪問は、近所のお友達の家から順番に回ってくるため、そろそろ先生が来るという頃に、お友達のお母さんからLINEで連絡が入りました。「先生、そちらの家に向かったから、もうすぐ着くよ。」そのメッセージを見て、息子は再び家の前へ。嬉しそうに今か今かと先生の到着を待ち構えていました。
ちょうどその頃、我が家には大きなバランスボールが置いてありました。息子が所属していたサッカーチームで、体幹を鍛えるトレーニングに使っていたんです。なぜかというと、当時、サッカーチームの上級生たちが体幹が弱く、試合で相手に体当たりされるとすぐによろけてしまうことが多かったから。そこで、「体幹を鍛えてみよう!」という試みで、夜の体育館練習へ各自バランスボールを持っていくことになっていたのです。
ちなみに、このバランスボールでの試みは、残念ながらあまり効果がありませんでした。息子の学年は、結局「ものすごく弱いチーム」のまま小学生時代を終え、バランスボールを使った体幹トレーニングも、後にも先にもこの学年で終わってしまったのです……本当に残念な話です!(笑)
さて、そんなバランスボールを先生が見た時です。先生は体育大学ご出身だったこともあり、「体幹を鍛えるのに、バランスボール?」という点が心に引っかかったらしく、突如として熱い指導が始まりました。
「バランスボールがなくても、体幹は十分に鍛えられます!」と、先生は身振り手振りを交えながら、体幹トレーニングの重要性を熱心に教えてくださったんです。時計を見ると、もう次の家に向かわなければいけない時間。私は、熱のこもった先生に「また今度、ぜひご指導をお願いします!」と声をかけ、後ろ髪を引かれる思いで次のお宅へお見送りしました。
もしあの時、先生にもっとじっくりとご指導いただき、バランスボールを使わなくても体幹を鍛えられる方法を教わっていれば、息子のサッカーチームの未来は、もしかしたら変わっていたのかもしれません……なんて、今となっては叶わぬ夢ですね。
小さな手から渡された、心温まる「ありがとう」
先生とお別れする時、息子は本当に上機嫌で、いそいそと冷蔵庫へ向かいました。そして、用意していた袋に枝豆を入れ、満面の笑みで先生に手渡したのです。小さな手で一生懸命お土産を用意し、先生に差し出すその姿は、本当に微笑ましくて、私の心に温かい光を灯してくれました。
先生もまだお若かったので、「ありがとう!」と、子どもの気持ちを汲んで、気兼ねなく受け取ってくださいました。その優しさに、親として感謝の気持ちでいっぱいになりました。
あの頃の息子は、本当に天真爛漫で、どんな時も無邪気な笑顔を見せてくれました。もちろん、今も可愛い我が子ですが、もう思春期真っ只中。あの頃の可愛らしさや、先生を想う真っ直ぐな気持ちが、今でも私の心に温かい思い出として残っています。家庭訪問という形はなくなってしまいましたが、あの日の小さな「ありがとう」は、我が家の大切な宝物です。